本を抱えて窓際へ

かつて文学少女だった30代の読書録。大人になってからは、実用的な本も読むようになりました。

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層ー複雑な国際情勢理解の一助に!

エマニュエル・トッドは、人口統計・家族構造に注目して、世界情勢を分析をしている、フランスの歴史人口学者・家族人類学者。

最近では、ロシアのウクライナ侵攻についてのインタビューも話題になった(トッドは、根本の原因にアメリカがあるのではと述べていました)。

エマニュエル・トッドは「予言者」か?

エマニュエル・トッドは「ソ連崩壊」や「トランプ政権誕生」を予見していた人で、メディアでは予言者扱いされているが、予測は全て統計などの数字から導き出されているという。

例えば、ソ連崩壊を予想したのは、ソ連の乳児の死亡率が上がっていたことからだそう。国は発展すれば乳児の死亡率が下がっていくのが普通だけど、ソ連は下がるどころか上がっていて、「これは国として長く持たない」と判断。

さらに、トランプ政権誕生を予想したことに関しては、トッドの「家族構造研究」が大きく関わっている。

トッドは、ヨーロッパ、アメリカ、日本、中国など、世界の主だった国を4つの「家族構造」で分析。
国・地域によって家族のあり方・システムが違っていて、この家族構造の違いが、その国の政治・社会に大きな影響を与えているという考え方だ。

以下、トッドの説く家族構造をご紹介。

1)絶対核家族(アメリカ、イギリスなど)

  • 子供は成人したら親からの早期独立が望まれる
  • 教育に熱心ではない
  • 親は兄弟間の平等に無関心
  • 相続は遺言によって行われる
  • 基本的な価値観は自由で、自由経済を好む

アメリカはこのような絶対核家族の家族構造なので、教育熱心ではなく、低賃金で働くプアホワイトが多い。そういったマジョリティの低所得の白人は、増加しているヒスパニック系の移民と仕事が被ることが多く、移民に仕事を奪われていると感じている(低所得層の白人男性の自殺率が高かった)。

トランプはそういったいわゆる「アメリカ人」の不満を汲み取ったようなマニュフェストをしていたから、トッドはトランプが大統領になるのではと予見していた。トランプ大統領誕生は、「自由」と「競争」に疲れてしまった、絶対核家族原理の自己免疫反応では、とのこと。


2)直系家族(日本、ドイツ)

  • 長男一人が土地や財産を相続する
  • 兄弟間は不平等
  • 女性の地位が比較的高い(長男の嫁の権力)
  • 親は子供の教育に熱心(識字率は高い傾向)

直系家族の国は、基本的に縦社会で、不平等。長男に脈々とすべて受け継がれていくので、かなりの知識の蓄積がある。日本やドイツが敗戦後、経済的に強国になれたのも、直系家族ならではの知識の厚みのおかげでは、と考察。


直系家族のデメリットは、下の者が上の者に忖度しがちになる点。間違っていても指摘しづらい空気がある。この点が、日本の軍部の暴走・ドイツのナチスが生まれた原因と指摘している。
また、基本的に差別を抱える構造になっているので、移民を受け入れるのは簡単ではない。

3)平等主義核家族(フランス、スペイン)

  • 相続において兄弟は平等
  • 個人主義で子供の教育には熱心ではない
  • 自由と平等を好む

基本的に平等を好む社会なので、一番移民を受け入れるのに向いている。フランスでも、フランスのルールを守っていると、外国人でも一応、平等に扱ってくれる。

個人的に面白いと思ったのが、「フランスがおしゃれになった理由」について。

フランスの農民は自分の土地を所有できなかったので、相続は不動産ではなく動産(道具、家具、衣服、装飾品)がメイン。お金に替えられるような、価値ある物を生み出すために、デザイン、品質がどんどん洗練されていったそう。

 

4)外婚制共同体家族(ロシア、中国)

  • 一族外から嫁をもらう
  • 親の権威が強く、兄弟間は平等。
  • 教育熱心ではない
  • 女性の地位はあまり高くない。

この構造は、まさに共産圏そのもの(プーチン、習近平)。一人の独裁者の下に、国民全員がいる。
独裁者が仕切っているうちは国は安泰だけど、トップがいなくなると、たちまち崩壊してしまう危うさがある。


何でもかんでも民主主義がいい!と思いがちだけど、それぞれの国に合った政治形態があるのだな、と思った。

識字率と出生率の、深い関係

その他に、トッドは出生率の高さと女性の識字率の高さに相関関係があると指摘している。女性の識字率が上がると、周りの言うがままではなく自分で決定できるようになるので、必然的に出生率が下がる。

日本の少子化の原因は、元々女性の識字率が高いというのもあるけれど、「直系家族」に特有の教育熱心さ(日本は教育費が高いので、次の子を産むのをためらう)、長子重視なので、そもそもたくさん子供を産みたがらない、という部分も関係しているのでは、と考察されている。日本は、少子化しやすい要素が重なっている国だそう。

 

本書は、世界の国々について理解を深めたり、国際ニュースをまた違った視点で見ることができるようになる本だと思います。

鹿島茂さんの解説が非常にわかりやすいので、予備知識がなくても理解できます。