本を抱えて窓際へ

かつて文学少女だった30代の読書録。大人になってからは、実用的な本も読むようになりました。

人間椅子・和嶋慎治自伝『屈折くん』最高にロックでかっこいい生き方!

『屈折くん』は、人間椅子というロックバンドのリーダーの和嶋慎治さんという人が書いた自伝エッセイ。
人間椅子というバンドは1987年に結成されたのだが、長い間売れなくて、最近までアルバイトをして生活していたそう。

自分は自伝を書くような大した人間ではないけど、「ただ、僕に何か誇れるものがあるとしたら、好きなことを続けるために、苦労を重ねてきた、ということです。」という前書きから始まる。

青森の弘前で過ごした少年時代から、バンド活動を続けている現在までのことが綴られている。

破滅を求める私小説のような人生

このエッセイは結構長いけれど、とても面白いので、私はすぐに全部読んでしまった。自分をよく見せようとか、格好つけようとか、そういった部分がまったく無くて、本当に自分に正直に書いている様子が伝わってくる

和嶋さんの人生そのものが、文学のよう。子どものころから心地よくて楽な道よりも、試練を選んでしまう性格で、昔の文学者みたいな破滅型の人だ。

和嶋さんは長い間風呂なしアパートに住んでいたが、それを恥ずかしいと思うどころか、他の人がなかなかできない経験が味わえていると思っていたそう。

ステージで歓声を浴びて、その後新高円寺の陰気なアパートに帰って来る度に、いつも不思議な気がした。今までの激しい演奏がまるで別世界の出来事のような、静寂だった。相変わらず雨漏りがして、湿気っていて、そして死体を焼く臭いがした。台所の三角コーナーにキャベツの芯を入れっぱなしにしていたら、キャベツの黄色い花が咲いた。小さくて、きれいだった。

すごく文学的だなと感じ印象に残った一節。私小説の世界だ。

和嶋さんは、かつて2年間だけ結婚生活を送った。奥さんも綺麗でいい人だし、お金のない和嶋さんの代わりに稼いでくれるのだけど、このままでは幸せ過ぎて創作意欲が湧かなくなるからという信じられないような理由で離婚したという。

僕がこのままでは自分が駄目になる、いい作品を書くためにも、まともな人間になるためにも1人になりたいと言ったところ、奥さんはその理由だけで、別れを受け入れてくれた。

自分の創作のために人生を捧げている、本物の芸術家だと思った。
彼は、作品が他人に評価されることよりも、「自分の心の中から出てきた本当の情熱」を表現することのほうが大事だと語っている。

いくら他人に評価されなくても、自分が「こうだ!」と思った道をひたすら突き進んでいくのは、なかなかできないことだと思う。でも、「人間椅子」は世間から評価されなくても、一切世の中の流行に迎合せずに、自分たちのスタイルを貫き続ける。

所属していたレコード会社に「もう少し売れそうな曲を作ってみたら?」と提案されるたびにノーと言って、自分たちの原点(ブラックサバスのような不気味なサウンドに猟奇的な日本語の歌詞をのせる)に立ち返っていた。

和嶋慎治の親友・みうらじゅんとの対談

巻末にみうらじゅんとの対談があるのだが、みうらさんは和嶋さんの親友。

その中でみうらさんは、人間椅子は「キープオン・ロックンロール」をしている数少ないバンドだと語っている。一時的に「ロックンロール」できる人はたくさんいるけど、「キープオン」の部分がずっとできている人は珍しいから、続けているだけでもう人間から怪獣・妖怪になれる。
そのレベルに達した人は、変装・メイクとかしなくても、特殊なオーラが出てしまって、集団に混じっていても一目でわかってしまう。(例えば、和嶋さんは2キロ先にいた内田裕也が一目でわかったそう。常人にはないオーラがあるというか)


私自身は、どうあがいても怪物レベルには絶対になれないから、他人になんと言われても、我が道を「キープオン」できている人は、それだけで格好いいと思ってしまう。
自分の中の「情熱」は何なのか、今一度真摯に胸に問いかけたくなる一冊だった。

 

屈折くん

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